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名古屋地方裁判所 昭和63年(わ)1509号 判決 1988年12月26日

本店所在地

愛知県知立市山町北引馬野一五番地一

有限会社大成観光

(右代表者代表取締役 大川清吉)

国籍

朝鮮(慶尚南道昌原郡鎭田面東山里二五九番地)

住居

愛知県名古屋市港区小碓三丁目二九三番地

会社役員

大川清吉こと孫清吉

一九三二年一二月二八日生

右有限会社大成観光に対する法人税法違反、孫清吉に対する法人税法違反、所得税法違反各被告事件につき、当裁判所は、検察官田中良出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社大成観光を罰金三〇〇〇万円に、被告人孫清吉を懲役三年及び罰金八三〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人孫清吉においてその罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人孫清吉に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社大成観光(以下「被告会社」という。)は、愛知県知立市山町北引馬野一五番地一に本店を置き、「ジャンボ知立」の名称で遊技場(パチンコ店)を営むもの、被告人大川清吉こと孫清吉(以下「被告人」という。)は、本件当時は、同県大府市森岡町源吾五番地の二六に居住し、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括し、かつ同県高浜市高浜町川ノ田四〇番地七において、被告人の個人事業として「玉金会館」の名称で遊技場(パチンコ店)を営むものであるが、

第一  被告人は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、

一  昭和五八年一〇月一日から同五九年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億八九三万五五三二円であり、これに対する法人税額が四五一七万七三〇〇円であるのに、同五九年一一月二七日、同県刈谷市神明町三丁目三四番地所在の刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三四五万八九六円であり、これに対する法人税額が一六八六万六五〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二八三一万八〇〇円を免れ

二  同五九年一〇月一日から同六〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が、一億三八二六万六〇二二円であり、これに対する法人税額が五七三一万七一〇〇円であるのに、同六〇年一一月二七日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五六九七万九九九八円であり、これに対する法人税額が二二一七万二六〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額との差額三五一四万四五〇〇円を免れ

三  同六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億二五二七万六六六七円であり、これに対する法人税額が五三一六万一七〇〇円であるのに、同六一年一一月二一日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一四八五万五六一五円であり、これに対する法人税額が五三四万九四〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税との差額四七八一万二三〇〇円を免れ

もって、いずれも不正の行為により法人税を免れ、

第二  被告人は、個人事業にもとづく自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際しては、所得金額に関する収支計算をせず、適宜の過少な所得金額を計上するところのいわゆる「つまみ申告」を行う方法により、所得の一部を秘匿した上、

一  昭和五九年分の実際の所得金額が一億八六四五万四六八一円であり、これに対する所得税額が一億一七六九万二〇〇〇円であるのに、同六〇年三月一四日、同県半田市宮路町五〇番地五所在の半田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三二八〇万五〇〇〇円であり、これに対する所得金額が一二九三万三五〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額一億四七五万八五〇〇円を免れ

二  同六〇年分の実際の所得金額が一億七四六九万四七円であり、これに対する所得税額が一億九二六万六五〇〇円であるのに、同六一年三月一三日、前記半田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二九五七万七七二九円であり、これに対する所得税額が一一〇八万一九〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額九八一八万四六〇〇円を免れ

三  同六一年分の実際の所得金額が一億八八三五万六〇七一円であり、これに対する所得税額が一億一八五三万九〇〇〇円であるのに、同六二年三月一二日、前記半田税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三〇一七万九一〇三円であり、これに対する所得税額が一一四六万二四〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額一億七〇七万六六〇〇円を免れ

もって、いずれも不正の行為により所得税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(注) 証拠末尾かっこ内の甲・算用数字は、記録中の証拠等関係カードの検察官請求分に記載されている証拠番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問顛末書一五通

一  被告人作成の上申書二通

一  大川花枝こと朴命介の検察官に対する供述調書

一  大川花枝こと朴命介の大蔵事務官に対する昭和六二年四月七日付、同年五月二九日付、同年一〇月二九日付各質問顛末書

一  大川花枝こと朴命介作成の上申書

一  岩城美津子こと孫美津子(二通)、久野典男の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一  大蔵事務官作成の昭和六二年一二月四日付(三通)、同月一〇日付査察官調査書(三通)

判示第一の事実全部について

一  大蔵事務官作成の昭和六三年一月一三日付脱税額計算書説明資料(甲5)

一  金子洪碩、大川進こと孫進(二通)の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一九七号)(甲2)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一五二号)(甲7)

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一九八号)(甲3)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一五四号)(甲8)

判示第一の三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一九九号)(甲4)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一五六号)(甲9)

判示第二の事実全部について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料(甲19)及び昭和六二年一二月一〇日付(一三通)、同月一一日付(七通)査察官調査書

一  深谷啓司、岩田茂の大蔵事務官に対する各質問顛末書

判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一四九号)(甲16)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第七七号)(甲20)

判示第二の二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一五〇号)(甲17)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第七八号)(甲21)

判示第二の三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(記録証第一五一号)(甲18)

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第七九号)(甲22)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一ないし三の各所為は、各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告会社についてはいずれもさらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人の判示第二の一ないし三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役と罰金を併科し、罰金については情状に鑑み同法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については、同法四八条二項により判示第一の一ないし三の各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内において被告会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人については、懲役刑につき、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により判示第二の一ないし三の各罪所定の罰金額を合算し、その加重した刑期及び合算した金額の範囲内で被告人を懲役三年及び罰金八三〇〇万円にそれぞれ処し、被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、被告人に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が被告会社の経営するパチンコ店「ジャンボ知立」と被告人自身が経営するパチンコ店「玉金会館」の売上金の一部を所得から除外する等の方法により、長期にわたり計画的に多額の法人税及び所得税を逋脱していたものであり、昭和五九年度以降の三年間で法人税と所得税とで逋脱税額は総計四億二〇〇〇万円余りに上る高額であり、逋脱率も法人税が約七一・五パーセント、所得税が約八九・七パーセントと高率であって、犯情は悪質である。また、被告人が犯行に及んだ動機は、蓄財という利己的なものであって酌量すべき余地に乏しい。

その上被告人は、売上データ表や仕入伝票等を焼却して証拠を隠滅したり、自動販売機の売上げや公衆電話の料金については記帳、申告すら行なわないなどその犯行態様も大胆かつ悪質であり、正しく納税を行う社会一般に与えた影響は軽視しえず、被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら他方、逋脱の態様は大胆かつ計画的であるものの、単純な手口であり、巧妙とまでは言えず、被告人は逋脱によって得た資金を奢侈遊蕩に費消してはいないこと、被告人は外国籍であり、福祉の面や事業者としての育成援助の側面になると、外国人であることをもって施策外におかれ、恩恵を得られないということもあって、過去の窮状に鑑み、将来に不安を感じて自己や家族のため資産蓄積を図ったこと、脱税が発覚するや、被告人は国税局の査察調査に全面的に協力した上、修正申告を行い、本税、重加算税、延滞税のほか県市民税まですみやかに納付したこと、本件公訴事実についてもすべてこれを率直に認めて深く反省し、今後は新たな税理士の指導を受けて経理を改善し、正しい納税をする旨固く誓約していること、個人経営のパチンコ店を会社組織に変更したこと、被告人にはこれまで前科前歴がないことなど被告人に有利な事情も認められる。

そこで、これらの事情も勘案した上、被告会社及び被告人につき主文の量刑とし、被告人の懲役刑については執行猶予とした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大山貞雄)

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